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AIでもうかったのはIT大手7社だけ、ほかの米企業は利益率も1人あたり売上も横ばい 米Apolloが分析

3行でわかる

  1. 米投資会社Apolloの経済学者スロック氏は10月24日、AIは米国のIT業界の外ではまだお金の面で成果を出していないとする分析を公表した
  2. 米主要500社のうちIT大手7社は1人あたり売上と利益率が伸びている一方、残り493社はどちらも横ばいで、国全体の生産性にも変化は見えないという
  3. ただし法人カードの米Rampの集計では、AIに支払いをしている米企業は9月に55.9%と前年より12.1ポイント増えており、使う会社は増え続けている

米投資会社Apolloのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏は現地時間2026年10月24日、AIへの巨額の投資は、米国のIT業界の外ではまだお金の面で成果を生んでいないとする分析を公表しました(出典: Apollo(The Daily Spark)の公式サイト)。米国の主要500社(S&P 500)のうち、IT大手7社は社員1人あたりの売上も利益率も伸びている一方、残りの493社はどちらも横ばいだといいます。米国の掲示板Hacker Newsでは公開から数時間で400点を超える支持を集め、400件以上のコメントが付きました。

何が示されたか

分析は、Apolloが毎日出している経済の短信「The Daily Spark」に、5枚のグラフ付きで載りました。スロック氏の結論は、AIが経済全体で成功するかどうかを決めるのはIT大手7社ではなく残りの493社で、その493社にはまだ成果が見えない、というものです。

Apollo「No Signs of AI Payoff Outside the Tech Sector」公式サイト

Despite massive investments and widespread hype around artificial intelligence, the technology has delivered zero financial payoff to corporate America outside of tech.

人工知能への巨額の投資と幅広い熱狂にもかかわらず、この技術はIT業界以外の米国企業に、お金の面での成果をまったくもたらしていない。

原文を読む(apollo.com)

ここでいうIT大手7社は、一般に「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるApple・Microsoft・Alphabet(Google)・Amazon・NVIDIA・Meta・Teslaです。グラフを2つのグループで並べると、差ははっきりしています。

見ているもの IT大手7社 残りの493社
社員1人あたりの売上(物価の影響を除く) 上昇 横ばい
利益率 上昇 横ばい

国全体で見ても同じです。米サンフランシスコ連銀が出す、景気の波をならした生産性の指標には、AIで伸びが加速した跡はまだ見られないとしています。

スロック氏がこの見方を示すのは初めてではありません。8月の短信でも、493社はAIに多額のお金を使っているのに利益率には表れず、恩恵はAIを「売る側」の利益率にしか出ていないと書いていました。

一般企業はAI代を「コスト」と見始めた

今回の短信で新しく踏み込んだのは、AIの利用料に対する企業の見方です。AIの利用量は「トークン」という単位で数え、使った分だけ払う従量課金が一般的です。スロック氏によると、ベンチャー投資を受けた新興企業はこの利用料をどんどん増やしている一方、一般の大企業は最新で高価なモデルを必要とせず、その代金を払うつもりもないといいます。

利益に表れない以上、一般の企業はAIの利用料を伸びの源ではなく、利益率を削る経費として扱い始めている、というのが氏の見立てです。AIを本格的に使うのが経済のごく一部にとどまる間は、マクロ経済への効果も小さいままだとしています。

「計算は得意でも、仕事は判断」

では、AIの値段が下がり続ければ一般企業も成果を出せるのか。スロック氏はこれに慎重で、「思ったより難しいかもしれない」と見ています。

理由として挙げるのは、ビジネスで求められる力の多くが計算ではなく判断だという点です。判断は状況しだいで、誰に聞くかで答えが変わります。さらに、責任の所在や信頼、社風、明文化されていない決まり、倫理面の兼ね合いといった、会社の評判と最終的な売上・利益を左右する要素を、AIはまだ理解していないと氏は書いています。

公式サイトThe Buyers of AI Are Still Waiting for the PayoffApollo · apollo.com

使う会社は増えている

一方で、AIを使う企業そのものは増え続けています。スロック氏がグラフの出典の一つにしている米国の法人カード会社Rampは、自社のカードや請求の記録から、AIにお金を払った企業の割合を毎月集計しています。最新の9月分では、米国の利用企業のうち55.9%がAIの有料サービスに支払いをしており、前年同月から12.1ポイント増えました。会社別ではAnthropicが43.8%、OpenAIが40.6%です。

公式サイトRamp AI IndexRamp · ramp.com

Rampの集計では、AIの利用料の単価も下がっています。OpenAIとAnthropicの100万トークンあたりの平均単価は、9月中旬の週の0.86ドルから10月中旬の週には0.64ドルへと25.4%下がりました。ただしRampは、この利用料の数字は自社の管理ツールを使う一部の企業の集計で、米国全体のAI支出を代表するものではないと断っています。無料のツールや個人のアカウントでの利用も数に入っていません。

つまり「使う会社は増え、値段は下がっている。それでも、IT業界の外の企業の決算にはまだ表れていない」というのが、今見えている姿です。

反応と論点

Hacker Newsでは賛否が分かれました。賛成側は、プログラミングにはテストなどで答えが合っているかすぐ確かめられる仕組みがあるが、ほかの多くの仕事にはそれがないため、AIの効果がITに偏るのは当然だと指摘しました。電気や蒸気機関も生産性に表れるまで長い年月がかかったとして、今は成果が見えなくても不思議ではないという声も目立ちました。

反対側は、パソコンで行う仕事ならどこでもAIは役に立ち、ITの分野で先に効果が出たのは道具やデータがそろっていたからにすぎず、ほかの分野も追いつくと反論しました。人間の専門家も間違えるので、AIに求める正確さの水準は思われているほど高くないという意見もありました。

数字の見方にも注意が要ります。グラフは企業全体の売上と利益率を見たもので、AIだけの効果を取り出したものではありません。金利や景気、IT大手7社が自らAIを売る側でもあることなど、ほかの要因も混ざっています。AIを仕事に入れても成果を出せている企業は一部にとどまるという調査は、ほかにも出ています(Gartnerの調査)。

日本のビジネスへの影響

関係するか: これは米国企業の決算データをもとにした分析ですが、AIの利用料を払っても売上や利益に表れないという構図は、日本企業にもそのまま当てはまる問いです。経営者や、AI導入の予算を握る事業部長が、来年度の予算を組む前に押さえておきたい論点です。

誰にどう効くか: AIの効果を経営層に説明する立場の人です。「何人が使っているか」「何時間減ったか」だけでは、スロック氏が指摘する「利益率に表れない」という問いには答えられません。AIで浮いた時間が、売上の増加か費用の削減のどちらにつながったのかまで説明できるかが問われます。

今すぐやれること: 社内でAIを使っている業務を1つ選び、導入前後で「1件あたりにかかる費用」か「1人あたりの処理件数」を比べてみることです。あわせて、払っているAIの利用料を部署ごとに一覧にすると、スロック氏の言う「コスト」になっている部分が見えてきます。最新で高価なモデルが本当に必要な業務かどうかの見直しにもつながります。

注意点: スロック氏の分析は「まだ成果が見えない」というもので、「AIは役に立たない」という結論ではありません。若手がAIで仕事の質を上げても、AIなしの力が伸びるとは限らないという研究もあり(特許弁護士133人の実験)、効果の測り方そのものを決めてから導入を広げるのが現実的です。

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この記事の編集責任者

田中智大

AIデジマ編集長/株式会社ドイル 代表取締役

株式会社ドイル代表。元Googleで広告営業・コンサルティングに従事し500社以上を担当。広告運用とAIエージェント開発を手がける。