フィールズ賞の数学者が宿題の正誤の採点をやめた、AIで満点が並び「意味がない」 米UCバークレー

3行でわかる
- 米UCバークレーの数学教授でフィールズ賞受賞者のボーチャーズ氏が、宿題の正誤を採点するのをやめ、提出すれば点を与える方式に変えた
- AIを使った学生が安定して満点を取るのを見て、採点係にお金を払って答え合わせをする意味がないと判断したと学生新聞に語った
- 大学の教員向け指針は「AIの使用を見抜く道具で検証済みのものはない」とし、疑わしい場合は対面の口頭試問で確かめる方法を示している
米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の数学教授で、数学のノーベル賞と呼ばれるフィールズ賞の受賞者でもあるリチャード・ボーチャーズ氏が、学生の宿題の正誤を採点するのをやめ、提出すれば点を与える方式に切り替えました(出典: UC Berkeley Academic Senateの公式ドキュメント)。同校の学生新聞The Daily Californianが現地時間2026年10月23日、本人へのインタビューとして報じています。
何が起きたか
新しい評価は、宿題を出しさえすれば点になる「提出点」です。きっかけは、AIの力を借りて毎回のように満点をそろえる学生が目立ってきたことでした。学生がAIを使うのを止められない以上、採点係を雇って正誤を確かめる費用は無駄になる、というのが同紙に語った理由です。
ボーチャーズ氏自身もこのやり方には満足していません。The Daily Californianに対し、提出点は「not a very good system(あまり良い仕組みではない)」と述べつつ、ほかに妙案がないと説明しています。どの授業で変更したのか、何人の学生がAIを使っていたのかといった数字は、記事には出ていません。
なお、ボーチャーズ氏は2011年の授業ページで、当時は学科に採点の予算がなかったため宿題は「取り組んだ問題数」だけで評価すると書いていました(同じページには、その後予算がついたので採点することになりそうだという追記もあります)。正誤を見ない採点はこれが初めてではありませんが、理由が「お金がない」から「AIで答えの価値がなくなった」に変わった形です。
公式サイトMathematics 1B, Spring 2011
大学は「AIを見抜く道具」に頼れないと判断
大学としての対応も同紙が伝えています。授業でのAIの扱いは教員それぞれの裁量に任され、シラバス(授業計画書)にAI利用の方針を書き込むよう求められていると、学部教育担当の副学務副総長がメールで答えました。AI検出ツールについては、TurnitinやRumiなどを試したものの、全学共通で採用できる水準には届かなかったと報じています。
その教員向けの指針は、UCバークレーの学術評議会が2025年に出したもので、AI検出についてこう明記しています。
GenAI detection tools are increasingly less accurate; there are no validated GenAI detection tools.
生成AIの検出ツールは精度がますます落ちており、有効性が確かめられた検出ツールは存在しない。
原文を読む(academic-senate.berkeley.edu)代わりに指針が示すのは、監督付きの対面試験や、提出物の中身を本人に説明させる口頭試問です。シラバスの文例にも、無断でAIを使った疑いがあるときの対応が書かれています。
If unauthorized GenAI use on a particular assessment is suspected, the instructors may require you to complete a short, in-person examination orally or on paper, related to the content and skills tested in the original assessment.
特定の課題で無断の生成AI使用が疑われる場合、教員は、その課題で問うた内容と技能について、対面で口頭か紙による短い試験を受けるよう求めることがある。
原文を読む(academic-senate.berkeley.edu)ボーチャーズ氏の判断は、この指針の延長線上にあります。家で解く宿題は「本人の実力」を測る道具ではなくなり、測るなら教室で、本人を前にして確かめるしかない、という考え方です。
数学者自身が「将来が読めない」
インタビューは、OpenAIがAIエージェントで流体の難問「ナビエ・ストークス方程式」の問題を解いたとする証明を公表したあとに行われたと、The Daily Californianは伝えています。OpenAIの数学をめぐる動きは、10月に未公開AIの数学論文722本を公開した件でも数学者の間に賛否を呼んでいます。
同紙によると、ボーチャーズ氏は数年のうちに、人間の数学者のほうがAIより上手にできる仕事は残らなくなるかもしれないと見ています。数学科への進学を学生に勧めてよいのか、本人にも答えが出ていません。試しにChatGPTに尋ねても、先は読めないという返事だったそうです。
反応と論点
記事はHacker Newsで200点超、300件超のコメントを集めました。技術系ニュースサイトSlashdotの議論も含め、意見は大きく2つに分かれています。
- 賛成側: 宿題はもともと練習で、成績は教室の小テストと試験で決めればよい。解答例を締め切り後に配って自分で答え合わせさせれば足りる
- 反対側: 採点は学生のつまずきを早く見つけるための手段で、なくなると試験まで誰も気づかない。電卓やネット検索の登場でも宿題は形を変えて残ったのだから、「意味がない」は言い過ぎ
大人数の授業で一人ずつ口頭試問をする手間をどう賄うのか、という現実的な指摘も多く出ています。AIで成果物の出来は上がっても、AIなしの実力が伸びているかは別、という点は、米国の特許弁護士133人を追った実験とも重なる論点です。
日本のビジネスへの影響
- 使えるか: これは製品の話ではなく、評価のやり方の話です。日本の大学や企業でも、ChatGPTなどを使えば持ち帰りの課題の出来はそろって高くなり、提出物だけでは実力の差が見えにくくなる状況は同じです
- 誰にどう効くか: 採用担当者と、社内研修・資格制度を運営する人事担当者に直接関係します。持ち帰りの課題選考、レポート提出型の研修、通信講座の修了判定は、提出物の出来で本人の力を測る前提が崩れつつあります
- 今すぐやれること: 自社の選考や研修のうち「家で作って出すだけ」で合否が決まるものを洗い出し、提出物について本人に5分説明してもらう面談を1つ足してみることです。UCバークレーの指針のように、AIの使用を認める範囲を最初に文書で示しておくと、後からもめにくくなります
- 注意点: AI検出ツールに判定を任せるのは危険です。大学自身が「検証済みの検出ツールはない」としており、誤判定で人を不当に疑うおそれがあります。社員がどのAIを業務で使ってよいかを決めたい場合は、チャットAIのおすすめと料金比較で各サービスの法人向けプランを確認できます
一次情報
- 公式ドキュメントUC Berkeley Academic SenateGenAI Guidance for Instructors
- 公式サイトUC Berkeley Department of MathematicsMathematics 1B, Spring 2011(ボーチャーズ氏の過去の授業ページ)
- コミュニティSlashdotAI Use Convinces California Math Professor There's 'No Point' Grading Homework(議論)
- コミュニティHacker NewsAI use leads UC Berkeley math professor to see 'no point' in grading homework(議論)
参考にした報道(1件)
- The Daily CalifornianAI use leads UC Berkeley math professor to see 'no point' in grading homework
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