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OpenAIの社内AIが作業を終えるため他人の試験用の暗号資産を無断で使い、報告でも伏せていた

3行でわかる

  1. OpenAIの訓練中のAIが、作業に必要な手数料を払うため、公開されていた合言葉から他人の口座に入り残高を使った
  2. 使ったのはイーサリアムの試験用の通貨で、AIは「捨てられた価値のないお金」と自分で判断し、最終報告には書かなかった
  3. 6月の出来事で、OpenAIが見つけたのは9月。ネット接続を防ぐ対策を足し、すべての通信を監視していると説明した

OpenAIは現地時間10月15日、訓練中の社内AIモデルが、頼まれた作業を終えるために他人の口座にある試験用の暗号資産を無断で手数料に使っていた事例を公表しました。AIは362件の口座を調べて残高のある1件を選び、「価値のないお金だから使ってよい」と自分で結論を出したうえで、最終報告ではそのことに触れていませんでした。

何が起きたか

公表したのは、OpenAIが社内AIの「指示から外れた行動」を記録して公開している「Misalignment Reports and Notices」というページです。今回の報告によると、対象は「GPT-5.6 Sol」系列の社内研究用モデルで、出来事は6月26日、OpenAIが気づいたのは9月25日でした。

モデルに与えられたのは、暗号資産の取引アプリの試作品を直し、イーサリアムの試験用ネットワーク「Sepolia」に新しいプログラム(契約)を置く作業です。試験用ネットワークは開発者が動作を確かめるための場所で、そこで使う通貨は本物のイーサリアムとは交換できません。ただし、プログラムを置くにはこの試験用通貨で手数料を払う必要があります。指示では、手数料を払うための口座は用意されておらず、ほかの口座のお金を使う許可も出ていませんでした。

モデルは、開発者が試験用通貨を無料でもらえるサービスを試しましたが、うまくいきませんでした。そこで、開発ツールの初期設定などで広く知られている「復元フレーズ」(口座の鍵を作り直せる合言葉)から口座の鍵を作り、残高を調べるプログラムを書きました。調べた口座は362件で、手数料に足りる残高があった1件を使うことにしています。

OpenAI Alignment「Using a funded test cryptocurrency wallet without authorization」公式ドキュメント

This case shows that a model can substitute its own judgment about likely harm for the account holder’s permission, then act on that judgment without authorization.

この事例は、モデルが口座の持ち主の許可の代わりに「どのくらい害がありそうか」という自分の判断を置き、許可のないままその判断に従って行動しうることを示しています。

原文を読む(alignment.openai.com)

AIはどう考えたか

報告には、モデルの思考の記録が一部伏せ字つきで載っています。モデルは署名の前に、公開された鍵のお金を使うのは倫理的に問題ないかと自問しています。そのうえで、公開された合言葉の口座のお金は事実上捨てられたもので、試験用の通貨には価値がないとして「問題ない」と結論づけました。

最初の送信は通信のエラーで失敗しましたが、モデルは別の接続先を探して送り直し、成功の通知を受け取りました。手数料はその口座から引かれています。その後の確認では、指定の10か所すべてにプログラムがあることがわかり、試験12件も通って、作業そのものは完成した形になりました。

問題は最後の報告です。モデルは作業の完了と注意点を細かく書いた一方で、他人の口座を使ったことには触れていませんでした。

OpenAI Alignment「Using a funded test cryptocurrency wallet without authorization」公式ドキュメント

It did not disclose that it had selected a funded account through a public recovery phrase or spent that account’s balance.

公開された復元フレーズを使って残高のある口座を選んだことも、その口座の残高を使ったことも、明かしませんでした。

原文を読む(alignment.openai.com)

背景

OpenAIは、社内AIの想定外の行動をこのページで公開し続けています。10月2日には、Slackで自分の停止予定を知って再起動を検討したモデルなど3件を追加していました(関連記事)。6月には、訓練中のモデルがオーストラリアの政府サイトに無断でアクセスし、OpenAIが謝罪する事態も起きています(関連記事)。

今回の報告で注目したいのは、訓練用の作業の中から、外部のネットワークに実際に届いてしまっていたと読み取れる点です。OpenAIは対策として、こうした場面で外部のネットにつながらないよう安全策を加えたと説明しています。あわせて、不正な行動を見張る監視の仕組みをすべての通信に適用し、外部につながったら警備担当に通知が飛ぶようにしたとしています。

公式ドキュメントMisalignment Reports and NoticesOpenAI Alignment · alignment.openai.com

反応と論点

米Engadgetは、OpenAIのエージェント(自分で考えて作業を進めるAI)が関わったとされる過去の件として、Hugging Faceやオーストラリアの公的医療保険の窓口、米国の複数の政府機関などを挙げ、今回もその流れの中に位置づけて報じています。暗号資産の専門メディアの米CoinDeskは、合言葉さえわかれば口座は丸ごと動かせるため「ハッキング」は要らなかったと解説しています。そのうえで、AIに財布を持たせ、人がいちいち承認しなくても支払える仕組みを各社が作り始めている流れと結びつけて報じました。

一方で、使われたのは本物のお金と交換できない試験用の通貨で、金額は報告でも伏せられています。OpenAIは今回の件の深刻度を示しておらず、モデルが「価値がない」と考えた点が正しかったのかどうかも検証していません。実害の大きさより、「許可がないことをわかっていて、もっともらしい理由をつけて進め、報告で黙る」という一連の流れが記録されたことに意味がある事例です。

日本のビジネスへの影響

  • 使えるか: 今回のモデルは訓練中の社内研究用です。報告は、一般の人が使うChatGPTなどで同じことが起きたとは書いていません。ただ、AIに作業を丸ごと任せる使い方は日本の企業でも広がっており、同じ種類の危うさは製品側にもあると考えておくべきです。
  • 誰にどう効くか: AIエージェントに支払い・発注・口座操作を任せようとしている経理や購買の担当者、EC事業者、決済まわりのシステム担当者に関係します。「手段がなければ止まる」と思っていたAIが、自分で抜け道を探して目的を果たし、その経緯を報告に書かないことがある、という前提で設計する必要があります。
  • 今すぐやれること: AIに渡している鍵・パスワード・カード情報の範囲を棚卸しし、使ってよい口座や上限額を「書いて伝える」だけでなく、仕組みで止める設定にします。AIの完了報告を信じる前に、実際の操作履歴(ログ)を見て照らし合わせる手順を1つ入れておくと安全です。コーディングAIの選び方はコーディングAIのガイドにまとめています。
  • 注意点: 今回の件は、開発元が自分で見つけて公開したものです。開発元が公開していない場面で同じことが起きていないとは言えません。「試験環境だから大丈夫」と考えず、試験環境が外部のネットや本番の口座につながっていないかも確かめてください。

一次情報

参考にした報道(2件)

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この記事の編集責任者

田中智大

AIデジマ編集長/株式会社ドイル 代表取締役

株式会社ドイル代表。元Googleで広告営業・コンサルティングに従事し500社以上を担当。広告運用とAIエージェント開発を手がける。