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研究・論文一次情報

AIでプログラムの更新は3.4倍に、でも世に出るソフトは1.3倍どまり 米国の研究

画像はAIで生成したイメージです

3行でわかる

  1. 50万人超の開発者の調査で、AIに任せるとプログラムの更新記録は3.4倍に増えたが、完成品の公開は1.3倍だった
  2. ハーバード大の研究者も718社のデータから、AIで書く速さは上がってもソフトの完成量や雇用は増えきっていないと報告した
  3. 原因は人による確認の手間で、AIが書いた分だけ見直しや修正が増えていた。書く速さより、確かめる体制が成果を左右する

AIにプログラムを書かせると、書かれる量は大きく増えても、完成して世に出るソフトはそれほど増えていない。そんな結果を示す研究が米国で相次いでいます。50万人を超える開発者のデータを分析した研究では、AIに作業を丸ごと任せる使い方でプログラムの記録が3.4倍(240%増)になった一方、実際のリリース(完成版の公開)は1.3倍(30%増)にとどまりました。現地時間10月12日には、この研究を取り上げた米Ars Technicaの記事が開発者向け掲示板Hacker Newsで紹介され、275件のコメントが付く議論になっています。

何がわかったのか

1つ目は、全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー(査読前の論文)として公開された、Mert Demirer氏、Leon Musolff氏、Liyuan Yang氏の研究です。2026年5月に出て9月に改訂されました。GitHub(プログラムの保管・共有サービス)を使う50万人超の開発者について、AIの利用記録と作業の記録を突き合わせています。

AIの使い方は3世代に分けて比べました。入力の続きを予測して補う「自動補完」、人と対話しながら書く「対話型エージェント」、指示を受けて自分で作業を進める「自律型エージェント」です。プログラムの変更を記録する回数(コミット)は、それぞれ累計で30%、180%、240%増えました。ところが、作業の段階が完成品に近づくほど効果は薄れます。

NBER Working Paper 35275「Writing Code vs. Shipping Code」論文

Large task-level AI productivity gains have therefore translated only partially into shipped and used software thus far.

したがって、作業単位での大きな生産性の向上は、これまでのところ、公開され使われるソフトウェアには部分的にしか結び付いていない。

原文を読む(nber.org)

自律型エージェントの場合、240%増えたコミットは、手がけるプロジェクトの数では80%増、実際のリリースでは30%増まで縮みました。さらに4つの大手ソフト販売サイトを調べると、新しいアプリの数は急に増えた一方、アプリ全体の利用量は増えていなかったといいます。

なお論文のページによると、Demirer氏とMusolff氏はかつてMicrosoftで博士研究員を務め、現在は同社の有償の研究コンサルタントです。

もう1つの研究:見直しが追いつかない

2つ目は、ハーバード大学のFiona Chen氏とJames Stratton氏が2026年8月にまとめた、企業でのAIとソフト開発の詰まりを調べた研究です。開発チームの作業を分析するサービスのデータから、718社・3億件の作業記録を使い、各社がAIを導入した時期の違いを利用して効果を測りました。

結論は1つ目と同じ方向です。AIの補助機能もエージェントも書く生産性は上げましたが、Chen氏のサイトに載る論文の要旨は、生産性の向上が「ソフトの完成量や雇用の変化に完全には波及していない」と書いています。エージェントの場合、その理由は人によるプログラムの見直し(コードレビュー)にありました。見直しにかかる時間が延び、修正が必要になるプログラムが増え、見直しの際に付くコメントも増えていたといいます。

なぜ書く速さが成果に直結しないのか

NBERの研究は、ソフト作りを「いちばん弱い工程が全体の速さを決める」仕組みとして説明しています。AIと人の作業がどれだけ置き換えられるかを示す数値は0.23と推計され、両者は互いに代わりがききにくい関係だとしました。AIが書く工程だけ速くなっても、仕様を決める、確かめる、公開するといった人の工程が詰まれば、完成品の数は増えません。

これは工場のライン作業にたとえるとわかりやすい話です。部品を作る機械を3倍速にしても、検品係が1人のままなら、出荷できる製品はほとんど増えません。

反応と論点

Hacker Newsでは、受け止め方が分かれました。プログラムを書く時間はもともと開発者の仕事のごく一部で、設計や検討に大半の時間を使っているので、書く速さが倍になっても全体は少ししか速くならない、という同意の声がありました。AIが書いたテストが欠陥のある動きを「正しい」と判定していた、と見直しの重要さを示す体験談も出ています。

反対に、研究のデータの多くは2025年ごろのAIで、今の性能を反映していないという指摘も目立ちました。人による見直しをやめた新興企業のほうが速く出荷し、業界全体が追随するだろうと予想する人や、行ごとの見直しに代わるAI時代の新しい確認方法が必要だという人もいます。

AIに任せた仕事の確認がいかに難しいかは、AIに研究を任せたら成果を「盛って」報告した米Epoch AIの検証や、AIを5体のチームで働かせても成績はほぼ同じで費用は最大5倍になったVals AIの検証でも浮かび上がっています。

日本のビジネスへの影響

  • 使えるか: 2つとも誰でも読める公開論文で、日本の企業がそのまま参考にできます。ただし対象は米国のデータが中心で、日本の開発現場で同じ結果になるかは確かめられていません。
  • 誰にどう効くか: AIコーディングの導入効果を測る立場の経営者や開発部門の責任者に関係します。「書いたプログラムの量」や「作業の記録数」で効果を測ると、実際の成果を大きく見誤るおそれがあります。外注先からAI導入で工数が下がったと説明を受ける発注側の担当者も、何を数えた結果なのかを確かめる価値があります。
  • 今すぐやれること: AIを導入済みのチームなら、コミット数ではなく「リリースした機能の数」「見直し待ちの時間」「公開後の不具合」を導入前後で比べてみてください。見直しが詰まっていれば、AIを増やすより見直す人の時間を確保するほうが効くかもしれません。ツールの選び方はコーディングAIのおすすめと料金比較にまとめています。
  • 注意点: NBERの論文はまだ査読前で、著者2人はMicrosoftの有償コンサルタントです。また、どちらの研究も最新世代のAIが出る前のデータが中心です。数字は「AIは役に立たない」という意味ではなく、人の確認の工程を変えないと効果が出にくいという意味で読むのが妥当です。

一次情報

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この記事の編集責任者

田中智大

AIデジマ編集長/株式会社ドイル 代表取締役

株式会社ドイル代表。元Googleで広告営業・コンサルティングに従事し500社以上を担当。広告運用とAIエージェント開発を手がける。