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Anthropicの上場目論見書を報道各社が確認、売上12倍も計算資源に5180億ドルの約束

画像はAIで生成したイメージです

3行でわかる

  1. 2025年の売上高は約46億ドルで前年の約12倍、営業赤字は約81億ドル、最終赤字は約420億ドル
  2. クラウドや半導体に今後約10年で5180億ドル超を約束、うち約8割は解約できない契約
  3. 約80ページのリスク要因でAIの存亡リスクを明記、創業者7人が議決権の50.1%を握る設計

Anthropicが6月に米証券取引委員会(SEC)へ非公開で提出した上場目論見書(S-1。株式を公開する前に投資家へ示す登録届出書)の中身を、ロイターと英フィナンシャル・タイムズ(FT)が現地時間9月28日に報じました。2025年の売上高は前年の約12倍の約46億ドルに伸びた一方、最終赤字は約420億ドルに膨らんでいます。AIデジマ編集部が9月30日に確認した時点で、SECの公開データベースEDGARに同社の目論見書は掲載されておらず、以下の数字はすべて報道ベースです。

何が報じられたか

報道各社が伝えた2025年の主な数字は次のとおりです。

項目 2025年
売上高 約46億ドル(前年の約12倍)
営業費用 約126.5億ドル
うち計算資源・インフラ 約73.3億ドル(前年の約3倍)
営業赤字 約80.6億ドル(2024年は約29.8億ドル)
最終赤字 約420億ドル
現金・短期投資(年末) 約202.8億ドル

最終赤字のうち約340億ドルは、投資家からの資金調達に関連する会計上の費用で、現金の流出は伴いません。一方、計算資源への支出だけで売上高の約1.6倍に達しており、本業の採算はまだ厳しい状態です。

2026年に入ってからは数字が大きく変わっています。FTは、2026年4〜6月期の売上高が115億ドルに達し、調整後の営業損益が2四半期連続の黒字に向かっていると報じました。Fortuneによると1〜3月期の売上高は47.3億ドルで、4〜6月期の115億ドルはその2倍以上に当たります。

もう一つの焦点は計算資源の契約です。ロイターによると、Anthropicは今後約10年で少なくとも5180億ドルをインフラに投じる契約を6社と結んでおり、約8割は解約できないか、使わなくても支払う義務があります。主な内訳は次のとおりです。

  • Google:1111億ドル以上(2026年4月〜2033年7月)
  • Amazon:1100億ドル(2026年5月〜2036年4月)
  • Microsoft:314億ドル(2026年11月〜2033年5月)
  • Broadcom関連の機器リース:約1612億ドル

顧客の集中も開示されました。2025年の売上高の約4分の1は上位2社からで、大口顧客の多くは長期契約を結んでおらず、いつでも支出を減らせるとしています。

訂正(10月1日)

1〜3月期の売上高47.3億ドルを「ブルームバーグが8月に伝えた」としていましたが、参考にした資料では確認できなかったため、この数字を載せているFortuneの記事を出典とする書き方に改めました。

リスク要因と経営の仕組み

目論見書の特徴は、自社が開発するAIそのものの危険を、投資家向けのリスクとして正面から書いている点です。SiliconANGLEによると、目論見書は高度なAIモデルが人類に「catastrophic or existential risks(壊滅的または存亡に関わるリスク)」をもたらしうると記しました。想定している振る舞いは、モデルが自らを守ろうとして停止に抵抗する、情報を隠したり操作したりする、脅迫に似た行動をとる、といったものです。評価されていると気づいたモデルが振る舞いを変え、安全性を確かめにくくなるという懸念も取り上げられています。

分量にもその重さが表れています。ロイターによると、本文261ページのうちリスク要因は約80ページで、事業の説明(48ページ)を大きく上回ります。一方でCTechによれば、7月のある1週間に研究用の計算資源のうち安全性研究へ回したのは約6%でした。

経営の仕組みでは、共同創業者7人が特別な株式を通じて主要な議決の50.1%を握る設計が報じられています。取締役のうち4人は、同社の公益目的を監督する独立機関「長期利益信託(Long-Term Benefit Trust)」が選びます。

背景

Anthropicは6月1日、目論見書の草案をSECに非公開で提出したと自ら発表していました。公式Xでは、SECの審査が終われば上場を選べるようになると説明しています。

その直前の5月には、シリーズHで650億ドルを調達し、評価額(投資後)は9650億ドルとOpenAIの8520億ドルを初めて上回っています。報道によると、上場時の評価額は2兆ドル超が目標とされ、上場は11月の米中間選挙の後になる見通しです。ただし同社は6月の発表で、上場の実施は市場の状況などに左右されると断っています。

Anthropic公式発表「Anthropic confidentially submits draft S-1 to the SEC」公式発表

The proposed initial public offering will depend on market conditions and other factors.

予定している新規株式公開は、市場の状況やその他の要因によって左右されます。

原文を読む(anthropic.com)

ロイターは、目論見書がAmazon・Google・Microsoftへの依存もリスクに挙げている点を伝えています。3社はAnthropicに出資しながら、顧客でもあり、クラウドの提供元や販売の窓口でもあり、自らAIモデルを開発する競合でもあります。一方のOpenAIは年内の上場を見送り、非公開のまま巨額の資金を集め続けています(「OpenAIが評価額1.4兆ドルで300億ドル調達を協議と報道」参照)。

反応と論点

Hacker Newsのスレッドは130ポイント超、コメントは約140件に達しました。420億ドルの赤字や5180億ドルの契約額の大きさに驚く声が多く、売上の4分の1を占める2社がどこなのかを推測する書き込みも目立ちます。開発者のSimon Willison氏は、報道が2025年の数字に偏っており、急成長した2026年の姿が読み取れないと指摘しました。

社会を大きく変える技術でも投資に見合う利益を出せるとは限らず、航空業界に似ているという冷ややかな見方もあります。一方で、最終赤字の大半は会計上の費用であり、見るべきは急成長した2026年の数字だという反論も出ています。モデル単体では利益が出ていても、次のモデルへの投資で会社全体は赤字になる構造だと、過去のダリオ・アモデイCEOの説明を引いて擁護する書き込みもありました。AIを売り込みながら人類への脅威を警告する目論見書の構図そのものも、CTechなどが論点として取り上げています。

日本のビジネスへの影響

Anthropicは2025年10月に東京オフィスを開き、日本企業への販売を広げています。開設時の発表では、アジア太平洋地域での年換算の売上高が1年で10倍超に伸びたと説明していました。

Anthropic公式発表「Anthropic officially opens Tokyo office, signs Memorandum of Cooperation with the Japan AI Safety Institute」公式発表

All this reflects the extraordinary momentum we're seeing across Asia Pacific, where our run rate revenue has grown more than 10x in the past year.

こうした動きはすべて、アジア太平洋地域で私たちが目の当たりにしている並外れた勢いを表しています。同地域での年換算の売上高は、この1年で10倍超に伸びました。

原文を読む(anthropic.com)

Claudeは自社APIのほか、AWSやGoogle Cloudなどのクラウド経由でも使われています。目論見書は、こうした大手クラウドとの関係が同社の成長と弱点の両方であることを示しました。

利用企業にとって大きいのは、上場後に四半期ごとの財務やリスクの開示が定期的に手に入ることです。これまで推測に頼っていた取引先としての健全性を、数字で確かめられるようになります。大口顧客の多くが長期契約を結んでいないという開示は、利用企業の側も条件を見直したり他社に移ったりしやすい立場にあることを示しています。

一方、解約できない巨額の計算資源契約は、Anthropicが利用量の拡大を急ぐ理由にもなります。料金体系や提供条件が今後も頻繁に変わる可能性を前提にしておくのが現実的です。今すぐできることは、社内でClaudeに依存している業務を洗い出し、他社モデルへの切り替え手順を確かめておくことです。目論見書が正式に公開されたら、AIの危険な振る舞いを列挙したリスク要因の章は、社内のAI利用ルールを作る際の参考資料にもなります。

一次情報

参考にした報道(6件)

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この記事の編集責任者

田中智大

AIデジマ編集長/株式会社ドイル 代表取締役

株式会社ドイル代表。元Googleで広告営業・コンサルティングに従事し500社以上を担当。広告運用とAIエージェント開発を手がける。