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活用事例一次情報

「先月の交通費はいくら」と銀行アプリに聞ける、ブラジル大手Itaúが年内に全顧客へ OpenAIのAIで

3行でわかる

  1. ブラジルの大手銀行Itaúは、アプリに文字や声で話しかけて支出の確認や送金、投資の相談までできるAI「ia.i」を約30万人に先行提供している
  2. OpenAIのAIを含む複数のモデルを使い分け、年内に個人向けアプリの全利用者へ広げる計画。約7,000万人の顧客の状況をAIで把握する
  3. 法務部門では9,000万件超の書類を読むAIが月200万件超の作業をこなし、工程によって20〜80%効率が上がったとしている

ブラジルの大手銀行Itaú(イタウ)は、スマートフォンのアプリに文字や声で話しかけるだけで、支出の確認から送金、投資の相談まで頼めるAI「ia.i」を約30万人に先行提供し、2026年末までに個人向けアプリの全利用者へ広げる計画です。OpenAIは現地時間10月16日、このItaúの取り組みを導入事例として公開しました。社内では、法務部門が9,000万件を超える書類をAIで読み、工程によって作業効率を20〜80%高めたとしています。

何を作ったか

ia.iとは、Itaúの銀行アプリに組み込まれた会話型のAIです。口座、ローン、カード、保険といった手続きを1つの画面の会話にまとめ、必要なときは人間の担当者につなぎます。Itaúの公式サイトでは、使い方の例として「先月、交通費にいくら使った?」「どうすれば節約できる?」といった質問を挙げています。答えは利用者ごとの使い方や支出の癖に合わせて返り、支払いや申し込みが必要ならアプリの該当画面へ案内します。

ia.iは6月にリオデジャネイロで開かれた技術イベントで発表され、ブラジルのIT専門メディアMobile Timeは、少数の顧客で試験が始まったと報じていました。Itaúによると、7月27日に約30万人に向けて正式に公開されました。9月までに300万人、年末までに個人向けアプリの利用者全員に広げる計画で、利用者側で設定する必要はなく、ホーム画面に自動で表示されます。WhatsApp(ブラジルで広く使われるメッセージアプリ)での手続きにも対応しています。

設計で重視したのは「技術を目立たせないこと」だと、ItaúのCTO(最高技術責任者)カルロス・エドゥアルド・マッゼイ氏は説明しています。

OpenAI「How Itaú is building generative AI for its entire customer base」公式発表

Much of it is about making something simple, direct, and useful, delivering a direct benefit to the customer, and making the technology almost unnoticeable

大事なのは、シンプルで、まっすぐで、役に立つものを作ること。顧客に直接の利点を届け、技術をほとんど意識させないことだ。

原文を読む(openai.com)

どう作ったか

ポイントは、1つのAIに頼らず、用途ごとに複数のAIを使い分けたことです。残高確認のような単純な質問には速くて安いモデルを、投資の相談のように筋道立てた判断が必要な場面には推論の強いモデルを当てています。OpenAIの事例によると、約7,000万人の顧客の生活段階や習慣をまとめた「Customer DNA」という仕組みに、OpenAIのGPT-5系のモデルが使われています。

その土台が、Itaúが自社で作った「IARA」です。社内の各チームが、決められたルールの範囲で複数のAIを呼び出せる共通の窓口で、OpenAIはその提供元の1つという位置づけです。Mobile Timeも6月の時点で、Itaúが複数の大規模言語モデルを振り分け役の仕組みで束ねて使っていると、同行の最高情報責任者の説明を元に報じています。IARAは、1回ごとのAI利用料の管理、回答の正確さの確認、偏見を含む答えを防ぐ社内ルールの適用を一手に担います。マッゼイ氏は、規制の厳しい金融業界でも速く動けるのはこの仕組みがあるからだと述べています。

成果

公表された数字は次のとおりです。

取り組み 数字
ia.iの先行利用者 約30万人(年内に個人向けアプリの全利用者へ)
AIで把握する顧客 約7,000万人
法務部門のAI 書類9,000万件超を対象に、月200万件超の作業。工程により20〜80%効率化
営業担当者向け(目標) 顧客と向き合う時間を3倍、対応速度を最大2倍

営業担当者向けの数字は、成果ではなく「期待している効果」として示されたものです。担当者は、面談前の要約や準備、顧客の課題整理にAIを使っています。Itaúは今後、ia.iで商品の試算や申し込み、収入と支出の定期的な分析もできるようにする計画です。

背景

ブラジルの調査会社と組んだItaúの調査では、ブラジル人の80%がお金の管理をもっとうまくやりたいと答え、65%が継続して助言してくれる「お金の副操縦士」のような技術を望んでいたといいます。Itaúは2024年から一部の金融相談にAIを使い始めており、ia.iはそれを全面的な会話の入り口に広げたものです。

銀行がAIを全行で使う例は増えています。AIデジマでも、英国のBarclaysが全行でClaudeを導入した件を伝えました。Itaúの特徴は、社員向けにとどまらず、数千万人規模の一般の顧客にAIとの会話を直接開いた点です。

日本のビジネスへの影響

  • 使えるか: ia.iはItaúの顧客向けで、日本からは使えません。ただ、使われているOpenAIのモデルは日本からも契約でき、同じ構成の仕組みは国内でも組めます。用途ごとのAIの料金はAI APIの料金比較にまとめています。
  • 誰にどう効くか: 銀行や保険、カード会社のデジタル部門と、問い合わせ窓口を抱える企業の経営者です。「メニューを探させる」アプリから「聞けば答えて該当画面へ案内する」アプリへの切り替えは、問い合わせ件数の削減と、商品の案内の機会を同時に生みます。
  • 今すぐやれること: OpenAIの事例が「始め方のコツ」として挙げるとおり、まず「明細のこの支出は何か」のような、毎日寄せられる単純な質問を1つ選び、限られた顧客で試すのが近道です。社内では、法務の契約書確認のように書類を大量に読む作業から始めると、効果を数字で測りやすくなります。
  • 注意点: 金融の助言は、日本では金融商品取引法などの規制がかかります。AIの答えを誰が確認するか、送金などの操作は必ず本人が最終確認する設計にするか、利用料が膨らまないよう管理する窓口を先に作るか。OpenAIの事例が経営者への教訓として、利用を広げる前に管理の仕組みを整えることを挙げている点は、そのまま当てはまります。

一次情報

参考にした報道(1件)

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この記事の編集責任者

田中智大

AIデジマ編集長/株式会社ドイル 代表取締役

株式会社ドイル代表。元Googleで広告営業・コンサルティングに従事し500社以上を担当。広告運用とAIエージェント開発を手がける。