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規制・安全性一次情報

中国GLM-5.3の攻撃コード作成力はMythos級、安全策は簡単に外れるとAnthropic

画像はAIで生成したイメージです

3行でわかる

  1. Chrome V8の既知の脆弱性を使う試験で、GLM-5.3は410回中50回攻撃コードを完成させた
  2. Claude Mythos Previewは56回で、GLM-5.2やClaude Opus 4.6はほぼ0%だった
  3. 拒否機能の除去は約4,400ドルの計算費で可能。Anthropicは政府による安全性試験を求めた

Anthropicで最先端モデルの危険な能力を検証するFrontier Red Teamは現地時間9月29日、中国Zhipu AI(海外ではZ.ai)のオープンウェイトモデル「GLM-5.3」の分析を公表しました。攻撃コード(エクスプロイト)を自力で組み上げる能力は、Anthropicが限定公開にとどめている「Claude Mythos Preview」に迫るとしています。一方で安全策は、簡単な手法で64〜100%の割合で回避できたと報告しました。

何が発表されたか

報告の柱は、攻撃コードを作る能力の高さと、悪用を止める安全策の弱さの2点です。試験はどれも外部とつながらない隔離環境で、Anthropicが用意した標的だけを相手に行ったと説明しています。

攻撃コードを作る能力

自動で採点する2つの試験では、GLM-5.3はMythos Previewにわずかに届かない水準でした。

試験 GLM-5.3 Claude Mythos Preview
ExploitBench(Chrome V8の既知の脆弱性から攻撃コードを作る) 410回中50回成功 410回中56回成功
社内のバイナリ攻撃試験(OSS-Fuzz参加プロジェクトの100課題) 4% 6%

目を引くのは前の世代との差です。社内のバイナリ攻撃試験では、Claude Opus 4.6も前世代のGLM-5.2も1件も成功していません。Anthropicはこの差を、一線を越えた証拠と位置づけています。

Anthropic「GLM-5.3 and the spread of advanced cyber capabilities」公式発表

Although GLM-5.3 performs below Claude Mythos Preview here, a meaningful threshold has clearly been crossed: earlier models, like Claude Opus 4.6 and GLM-5.2, do not succeed in any of them.

この試験でGLM-5.3はClaude Mythos Previewを下回るが、意味のある一線を越えたのは明らかだ。Claude Opus 4.6やGLM-5.2といった以前のモデルは、1件も成功していない。

原文を読む(anthropic.com)

専門家が実際にモデルを操作した実験でも、攻撃は組み上がりました。

  • 未知の脆弱性:研究者がGLM-5.3を使い、広く使われるブラウザー(Linux版)のJavaScriptエンジンで新しい脆弱性を約1日で複数見つけ、ページを開いただけで閲覧者のファイルを読み取れる攻撃につなげた。脆弱性は開発元に報告済み
  • 既知の脆弱性:小型版のGLM-5.3-Flashで、公開済みのChromeの脆弱性と別の既知の欠陥を組み合わせた攻撃を完成させた。かかったのは人の関与20分とモデルの作業8時間で、ZhipuのAPI料金に換算すると20.40ドル

安全策の弱さ

GLM-5.3にも、明らかに有害な依頼を断る安全策は組み込まれています。ところが簡単な手を加えるだけで、攻撃の指示に応じる割合は大きく上がりました。Anthropicは同じ手口をClaudeに試した結果も併記しています。

回避の手法 GLM-5.3が応じた割合 Claudeの場合
偽の設定を与える(演習中のレッドチームだと思い込ませる) 64% 安全策で防がれた
思考の書き出しを先に埋める(検討済みで実行すると決めた体裁にする) 92% APIではこの操作ができない
拒否機能を取り除いた改変版を使う 100% 重みが非公開のため改変できない

3つ目の改変(abliterationと呼ばれる手法)は、費用の面でも手軽です。Anthropicのチームは初めての試みで約2,200 GPU時間、計算費にして約4,400ドルで済ませ、慣れたチームなら約600 GPU時間とみています。改変しても一般的な能力はほとんど落ちず、公開から数日のうちに改変版が出回ったとしています。

背景

Anthropicは約5か月前にMythos Previewを発表し、高度な攻撃コードを最初から最後まで自力で作れる初のモデルと位置づけました。悪用を懸念して一般公開は避け、防御側の組織に限って提供してきました。今回の報告は、同等の能力が誰でもダウンロードできる形で出回ったことを示しています。

米国立標準技術研究所(NIST)のCAISIによると、GLM-5.3は8月14日に公開され、その2週間後に重みが配布されました。Z.aiは8月28日に公式Xアカウントで重みの公開を告知し、エージェント型のコーディングとサイバー防御で最も高性能な自社モデルだと紹介しています。

Hugging Faceで配布されている本体は約7,500億パラメーターで独自ライセンス、Flash版はMITライセンスです。

CAISIは9月17日に独自の評価を出し、GLM-5.3を「これまでで最もサイバー能力の高いオープンウェイトモデル」としたうえで、米国の最先端からは約4か月遅れの水準と結論づけました。Anthropicの結果は、この評価とおおむね一致します。

反応と論点

Anthropic自身は、報告の締めくくりで政府による安全性試験を求めました。

Anthropic「GLM-5.3 and the spread of advanced cyber capabilities」公式発表

Governments should conduct safety testing on sufficiently capable AI models, including successors to GLM-5.3. Without high-quality evaluations from independent sources, the impact of these capabilities might not become fully clear to model developers until it is too late.

政府は、GLM-5.3の後継を含む十分に高性能なAIモデルの安全性試験を行うべきだ。独立した立場からの質の高い評価がなければ、こうした能力の影響は、手遅れになるまでモデル開発者にも十分には分からないかもしれない。

原文を読む(anthropic.com)

あわせて、防御側が攻撃側と同等以上のモデルを使えるよう、自社モデルの提供も広げるとしています。

Hacker Newsの投稿には約230ポイント、約220件のコメントが付き、批判が多数を占めました。競合を名指しした報告は利益相反ではないか、オープンウェイトモデル規制への地ならしではないか、という指摘です。閉じたモデルはセキュリティ業務でも拒否が多く、防御のためにこそ制限のないモデルが必要だという声や、結果的にGLM-5.3の宣伝になっているという皮肉も目立ちました。一方で、公開された重みは回収できず、危険性は現実だとする意見もあります。

規制をめぐっては、AnthropicのDario Amodei CEOが7月27日、オープンウェイトモデルの禁止を主張したことはないと表明しています(AxiosやBloomberg Lawが報道)。今回の報告も求めているのは政府による試験で、禁止ではありません。ただし、中国製オープンモデルへの規制論が米国で強まるきっかけになるかは注視が必要です。

日本のビジネスへの影響

GLM-5.3は日本からもHugging Faceで入手でき、各種APIでも使えます。攻撃者が使える道具の水準が上がったことは、日本企業にとっても前提の変化です。

特に影響が大きいのは、公開済みの脆弱性への対応速度です。Flash版の例のように、公開済みの情報から攻撃コードを仕上げるまでがモデルの作業8時間、約20ドルで済むなら、パッチ適用を後回しにできる期間は短くなります。ブラウザーや各種ドライバー、ネットワーク機器など、報告で名前が挙がった分野の更新は優先度を上げるべきです。

中国製のオープンウェイトモデルを社内で使う企業は、ライセンスの違い(本体とFlash版で条件が異なる)や、出所のわからない改変版を使っていないかを確認しておくと安心です。自社のシステムやコードの点検に使う防御目的の利用は正当な使い方ですが、利用範囲と記録を社内で決めておくことが前提になります。

一次情報

参考にした報道(5件)

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この記事の編集責任者

田中智大

AIデジマ編集長/株式会社ドイル 代表取締役

株式会社ドイル代表。元Googleで広告営業・コンサルティングに従事し500社以上を担当。広告運用とAIエージェント開発を手がける。